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ジェンダー化された災害脆弱性

バングラデシュ農村女性の洪水・冠水の経験

池田 恵子 (静岡大学)

概要

 災害への備え、被災直後の対応、復興などの各場面で男女は異なる経験をし、異なるニーズを持ち、時として被害の程度にも格差がある。被災地域の社会文化的固有性や開発の歴史的経緯によって、男女で災害脆弱性が差異化されるからである。本報告では、バングラデシュの洪水・冠水を事例に、報告者が1994年から2005年までの間に行った数回の調査資料に基づき、女性の災害脆弱性の変化を、日常の農村開発によって男女が資源と機会へのアクセスをいかに改善してきたかということに関連付けて報告した。
 まず、バングラデシュ政府の防災方針において表明されている「地域の防災計画への女性の参加」などのジェンダー課題は、パルダと呼ばれるジェンダー規範(女性は家屋敷の周辺を日動的な行動範囲として家族親族以外の男性との接触を避ける)を考慮せず、実際の防災プロジェクトでは、従来的な女性の役割を固定化するようなコンポーネントが導入され、政策理念と施策が乖離していることを指摘した。
 次に2004年の洪水の事例を中心に、近年の農村開発により災害脆弱性が男女間で拡大した可能性があることを述べた。洪水時に生計手段を確保し、長期的回復を図るための資源や機会を持っているかどうかは、災害脆弱性を構成する重要な要素である。農村の貧困世帯は、洪水によって打撃を受けた生業に替えて、都市や遠隔地農村で賃金労働をしたり、在来金融を活用したりするが、その大半は女性にとって活用しにくいものであった。1990年代の中頃から、都市と農村を結ぶ交通網の整備や小規模融資プログラムが浸透し、農村でも急速に農外雇用と制度金融の機会が拡大した。それらの機会は実質的に男性が活用している。女性は、都市での就業機会を得られたとしても、屋敷地外で就労することはパルダ規範に反するため、それを肯定的に捉えられない。その上、性暴力に遭う危険性も高い。また、洪水時の調理や飲料水の確保といった女性の困難な経験や、避難先の選定にもパルダ規範が影響していることなどにも言及した。
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