KIKUSAWA Ritsuko

散歩道(エッセイ集)

シリーズ・ことばを通して見る南太平洋 (2000-2001)
3. 数字の「8」は特別

 今回はちょっとリラックスして、数についてのお話をしましょう。日本では、数字の4や9は「死」や「苦」を連想させるとして避けられる一方、8は「末広がり」のおめでたい数だと考えられていますね。西洋では、13が悪い数で、3と7が縁起の良い数になっています。南太平洋にもこのような文化があるのでしょうか。

 ポリネシア諸語の専門家であるブルース・ビッグス教授の神話や伝説の分析によると、南太平洋では、伝統的には、8が強い力や特別な力を連想させる番号だったそうです。たとえば、一戦団は通常、八艘のカヌーで構成されていました。ベロナには、ンググタボンギという巨大タコを退治するのに八丁の斧をつんだ八艘のカヌーででかけた、というお話が伝わっていますし、タイヌイというマオリ族の祖先が乗ったカヌーは、八人の船大工によってつくられたそうです。

 日本には「やまたのおろち」の伝説がありますが、トンガの伝説には、ウルヴァル「八つ頭」という名前の頭が八つある悪魔と、八つの耳を持った神が登場します。ポリネシアの他の地域でも、八つの目や八つの手などは、超人的な能力を持つ伝説上の人物一般にみられる特徴だそうです。また、異界にまつわるお話にも8という数はたびたび登場します。クック諸島には、異界に滑り落ちた女性を、警備にあたっていたねずみたちを八つの実をつけるココナツの木から得た食べ物で追い散らして救い出すことに成功したというお話、また、ティコピアには、八日間眠り続けた神タファキの伝説があります。ニュージーランドの歴代の首長の子供はみな八人であるという記録がありますが、マンガレバやタヒチなどでも、神話のなかの神々や伝説の英雄の子供は八人で登場するそうです。

 ツバルという名称が「八つの島」を意味するatu valuに由来することはみなさん、よくご存知ですね。実際には島が九つあるのにこのような名前がついたということからも、8が特別な意味を持っていた羊とがわかります。また、転じて、8は「たくさん」とか「程度がはなはだしい」という意味でも用いられました。フィジー語では、長期にわたって降り続く雨をシガワルと呼びますが、これは、siga walu (八日間)からきています。

 どうして8が特別な意味を持つようになったのか、についてはよくわかっていません。また、この8という数、残念ながら現在のポリネシアの人達は特別な存在だと認識しているわけではないようです。みなさんもお知り合いの方がいたら聞いてみてください。

  さて、南太平洋の数についての文献を調べているときに、「8は日本でも特別な意味を持つ数である」という記述に出会いました。手元の辞典をみてみると、「八戒」、「八難」のような仏教用語をはじめとして、日本語でもいろいろな表現に「八」が入っていることに私もはじめて気がつきました。みなさんも調べてみてください。 「八重」のように、8で「たくさん」をあらわす用法は、太平洋言語のそれと共通しています。さらに、日本の古称「おおやしま」も、本州をはじめとする「八つの島」に由来しており、漢字で書くと「大八州」なのだそうです。日本とツバルには、思いがけない共通点があったのですね.  

(参考文献) Biggs, Bruce. 1990. Extraordinary eight. In J.H.C.S. Davidson (ed), Pacific island languages: essays in honour of G.B. Milner. London: School of Oriental and African Studies,University of London.

2000.7『Vasa Lanumoana 日本ツバル友好協会ニュースレター』(39) 掲載