KIKUSAWA Ritsuko

散歩道(エッセイ集)

シリーズ・ことばを通して見る南太平洋 (2000-2001)
4. 絶対方位と相対方位

 知らない土地で道をたずねると、「湖に向かってまっすぐ行くと着きますよ」などと言われて余計にわからなくなってしまうことがあります。最後は身振りで方向を示してもらってどうにかたどりつく、ということになるのですが、地元の人の日常生活においては、地形が方角を示す目印になっているということなのですね。 図1
 島の暮らしでは、海側・陸側を基準に方向をあらわすことが珍しくありません。たとえば、パプア・ ニューギニアの北東に位置するマナム島という島では、海側ilau、陸側auta、海に向かって右手ata、海に向かって左手awaをあらわす語があり、さらに、これらの組み合わせでより正確な方位をあらわすこともできます。図1を見てみてください。組み合わせ方が日本語の東西南北のこまかい表現と同じだということにお気づきいただけるかと思います。これでみなさんにはマナム島で安心して道をたずねていただけるわけですが、島の反対側に行く場合には、もちろん、図2のようにautaとilau の方向が絶対方位(東西南北)に対して逆転しますので気をつけてくださいね。
図2  方角・方位をあらわす語に関して、もう一つ、チヤモロ語の例をお話ししましょう。チヤモロ語では、同じ語でも示す方位が島によって異なりますので、グアム島やサイパン島にお見えになるときにはちょっと注意が必要です。表1に具体的な語をあげておきました。これらの語を東西南北にあわせて書いてみると、サイパン島での用法をそのまま時計回りに90度回転したのがグアム島での用法だということがわかります。どうしてこのような違いができてしまったのでしょうか。
表1  グアム島とサイパン島の地図を見ると、島の中心地がグアム島では島の北側、サイパン島では西側に位置しているのがわかります。これらの場所は、最初に人が住みはじめた場所だと考えられます。どうやら、もともとはIaguが島における居住地側、 hayaはその反対側、 kattan, luchanはその軸を基準とした方向をあらわす語だったものが、次第に絶対方位をあらわす語として定着したということであるようです。  

2000.10『Vasa Lanumoana 日本ツバル友好協会ニュースレター』(40) 掲載