KIKUSAWA Ritsuko

散歩道(エッセイ集)

シリーズ・ことばを通して見る南太平洋 (2000-2001)
6. ことわざに見る島の暮らしI

 外国語を学ぶとき、ある程度意識して覚えなくてはつかえるようにならないものにことわざがあります。ことわざや慣用表現は、生活習慣や伝説、自然環象などが前提となっていることが多いので、単語の意味や文法をよく知っているというだけでは聞いたときにすぐ理解するのは困難です。逆の見方をすれば、どのような表現がよくつかわれるのかを見ることで、現地の暮らしや人々のものの考え方の一端を知ることができるということですね。今回と次回は、数多い太平洋の言語のなかから、ロトゥーマ語のことわざをいくつかご紹介したいと思います。対応する日本語のことわざを思い浮かべながら読んでみてください。

◆ jikjik he ka ma ‘on ‘al「小さいカニにだって、はさみがある」
私達にはあまりなじみがありませんが、カニのはさみは強力です。はさまれるととても痛いし、指を怪我したりすることもあります。小さい者でも大きな仕事ができる、小さくてもやりかえすことができる、という意味で使われます。

◆ terạnit ka mas heta la ‘af 「マス(カニの一種)だって、いつかはやり返す」
タコが好んで食べるカニも、何度かに一度はそのはさみでタコの足を食いちぎることがあるそうです。ひとの弱みにつけこみ続けるといつかはし返しを受ける、という警句です。  以上のように、カニは、立場は弱くても芯は強い性質を持つものとしてとらえられているようですが、タコの方は、色を変えてカモフラージュをしたり急に墨を吐いたりすることから、常に悪いイメージと結びついているようです。

◆he‘ rou ki 「タコが墨を吐く」
信用していた人の裏切り、タコが隠していた墨を急にはきかけるように、隠していた本心が急に現れるような行いのことを指す表現です。

◆ he‘ ta a‘mofmofuạ iạ「タコが岩に化ける」
これは、タコが色を変えて背景にとけこんでしまうように、悪いことをした人がなにも知らないふりをして暮らしている、という意味でつかわれます。またタコは、墨をはくことから「汚い」というイメージにも結びつくようです。子供達が服を汚したり、清潔にしていないと、
◆ itạke ki ne he‘ 「タコの墨みたい(に汚い)」

叱られ方が日本とはちょっと違うようですね。ちなみに、ぼさぼさのきたない頭(髪)は、鳥の巣ならぬ、
◆ ‘o‘oag ne ruru 「ふくろうの巣」

また、大人できれいにしていない人は、カラスの行水ならぬ
◆le‘ ta vea‘ se iạ「あいつはve‘a (クイナの一種)みたいだ」
といわれてしまうそうです。水浴びが好きな他の鳥類と違い、 ve‘aは雨が降ると隠れてしまう習性があることからきているそうです。種類は違っても、日本語と同じく鳥に例えられているのがおもしろいですね。 

(参考文献) ) Howard, Alan and Jan Rensel. 1991. Animals as metaphors in Rotuman sayings. In Andrew Pawley, ed, Man and a half: essays in Pacific anthropology and ethnobiology in honour of Ralph Bulmer. Auckland: The Polynesian Society.
Inia, Elizabeth. 1998. Fäeag ‘es fūaga: Rotuman proverbs. Suva: Institute of Pacific Studies,University of the South Pacific.

2001.4『Vasa Lanumoana 日本ツバル友好協会ニュースレター』(42) 掲載