KIKUSAWA Ritsuko

散歩道(エッセイ集)

シリーズ・ことばを通して見る南太平洋 (2000-2001)
7. ことわざに見る島の暮らしII

 日本語には、中国の説話や伝説に基づいたことわざが多くありますが、ロトゥーマ語にも、寓話や言い伝えからくることわざがたくさんあります。

◆ Haghag ‘on fa‘ heta ma fa‘ heta ‘ānia ia. 「世話したペットに食われる」
これは、へびを育てた夫婦についての伝説に基づいた表現です。最初は小鉢に入るくらい小さかったへびがどんどん大きくなり、とうとう充分に食べさせることができなくなった夫婦を、へびが追いかけはじめた、という話だそうで、育ての親にさからう養子のことを指してつかうそうです。日本語にも「飼い犬に手を噛まれる」という表現がありますね。どこの社会でも、他人を世話してかえってくるのは恩だけだとは限らないようです。

◆ Vā ne höt ka la kao. 「船に乗りたがり、乗ったら船を沈める」
船に乗ってみたくて仕方がなかったねずみが、うまく船長と交渉して乗せてもらったのはいいけれど、乗ってしまうと今度は船をかじりはじめてとうとう沈めてしまう、というお話からきた表現です。日本語の「恩を仇で返す」にあたるのかと思ったら、そうではなくて、次々と要求をしてとまらない人に対するいましめだとか。欲は身をも他人をも滅ぼす、ということでしょうか。

 さて、太平洋の島々、海に近い地域では男性も女性も魚や貝をとりにいきます。海によくでかけて行く女性の勤勉さをほめると、
◆ Nōnō ma jül het fer ma foa‘ sio sin. 「juli (鳥の一種)がとまりそうでしょ」
と、冗談めかした応えがかえってくるかもしれません。これは、肌が海焼けで黒く、海辺にいるとjuliが岩と間違えてとまりそうなくらいだ、という意味です。女性は色白なのがよし、とされるのは、ロトゥーマ島でも同じこと、公式行事のある前などには、日焼けで黒くなるのを避けるため、日のなかに出たり、魚とりに行くのを避けることもあるそうです。肌が真っ黒でしょ、というのは、つまり、もらったほめ言葉にたいする謙遜の表現だということ。ほめられて自分をちょっと低くすることばで対応するなんて、なんだかなじみのある行動パターンだと思いませんか。 (ちなみに私のいる英語圏では、人にほめられたときにはThank you.とストレートに応えるのが普通です。)

 海に関係した表現をあとふたつ、ご紹介しましょう。
◆ Vạitoka lelei ka mȧm toaktoak‘iạ.「この泉は良いけれど、いつも真水であるわけではない」
海辺のちかくにある泉は、潮が満ちてくると塩気を帯びてしまう。機嫌がよくなったり悪くなったり、気分が変わりやすく信頼できない人を指していう言い方で、日本語ではさしずめ、お天気やさん、といったところでしょうか。南の島でも、付き合いやすい人ばかりではないようですね。
◆ Vak ta lelei ka sam ta raksa‘. 「舟はいいが、アウトリッガーが悪い」
アウトリッガーというのは、舟のバランスをとるための浮きのことです。村の長の人望が高く男性の統率がよくとれていても、その妻に女性の支持がないとバランスが崩れて物事がうまく運ばないという意味です。わかりやすい、なんでもないような比愉ですが、男性と女性がそれぞれ別のグループになって行動する社会であること、そしてそれぞれが異なる役割を担って社会を支えていることをよく反映しているいい表現だと思いませんか。

2001.7『Vasa Lanumoana 日本ツバル友好協会ニュースレター』(43) 掲載