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関雄二アンデス考古学研究室


古代文明を掘る

関 雄二

はじめに神殿ありき: 古代アンデス文明の創造力

パコパンパの貴婦人発掘
パコパンパの貴婦人を発掘中(2008年)

南米の古代アンデス文明と聞くと、すぐに思い浮かべるのがインカ帝国となろうが、インカは十五世紀後半から十六世紀前半の百年にも満たない短命な古代文化の一つであった。じつはインカに先立ってさまざまな文化が興亡を遂げていたことがわかっており、私たち研究者は、これらの総体をアンデス文明と呼んでいる。

東京大学の文化人類学教室が主宰する調査団がアンデス文明の中心地であるペルー共和国を初めて訪れたのは1958年のことであった。新旧両大陸の文明形成過程を比較検討することが当初のねらいであり、江上波夫先生率いるイラク・イラン調査団に続く戦後二番目の海外学術調査であった。世界進出が未だ本格化する以前のトヨタ社から寄贈を受けたジープに日の丸をはためかせ、アンデスの山中を走り回ったことや、一流の国営ホテルを遠くから羨望のまなざしで見つめながら一日二食で堪えたという当時の経済状況を彷彿とさせる話など今も団員の間で語り継がれている。

こうした中でアンデス調査団が追い求めてきたのは、文明胎動期とも言える形成期の社会発展の様相であった。形成期というのは、アンデス考古学上の時期区分の一つで、一般に紀元前1800年から紀元前後にあたるとされてきた。土器製作の開始を基準にしているのだが、数千年にわたる実験段階を経て農耕が本格化し、神殿建設が盛んになるのも形成期からである。とくに調査団が注目してきたのが、この神殿の役割であった。

その始まりは1960年、ペルー北東部の山中に位置するコトシュ遺跡における「交差した手の神殿」の発見にさかのぼる。一対の交差した手のレリーフが丁寧なつくりの建物の内壁を飾っていたのである。当時の文明史観では、狩猟採集から農耕定住へと社会が移行し、土器が製作され始め、余剰生産物が発生するのに伴い、社会の拡大化、さらに神殿の建設が始まるという図式が一般的であった。ところが、「交差した手の神殿」は、土器製作以前の古いものであった。言い換えればそれほど大きな社会が誕生していないはずの時期に、すでに神殿が建設されていたことになる。今でこそ、専門書やペルーの歴史教科書にコトシュの名が登場することは珍しくもなくなっているが、当時は、日本という研究後発国から発せられた文明形成過程についての筋書きの変更など欧米の学界が素直に受け入れるような雰囲気ではなかった。

もう一つコトシュの発見で注目すべきことは、神殿が一定の間隔をおいて意図的に埋められ、その上に再び同じ構造が建てられるという更新過程を経ている点であった。この更新過程は、その後行われた別の遺跡の調査でも次々と確認されたので、「神殿更新」と名づけることにした。

「神殿更新」は、土器が製作される以前から比較的小さな社会で建設され始め、社会の拡大や複雑化を牽引していったことがわかったのである。いうなれば「初めに神殿ありき」となろう。神殿が建設されるためには労働力を確保せねばならならず、更新の度にこれが行われれば社会統合の契機ともなろうし、労働のコントロールを通じて、権力や階層化の発生へとつながることにもなる。また協同労働の必要性は、食料増産を後押ししたことも思いつく。つまりすべては従来の理論とは逆で、「神殿更新」が社会変化を引き起こしたことになる。このように文明形成初期における神殿の重要な役割を考えると、従来の形成期という時期も、土器の登場を基準にするのではなく、もう少しさかのぼらせて神殿の登場をもってその始まりとする方がわかりやすい。

この「神殿更新」理論をはっきりと世に問うに至るまで実に40年の年月が必要であった。もちろん調査と並行して、遺跡周辺の地域住民との関係に注意を払うことも忘れてはいなかった。最近では出土遺物を日本に持ち帰り、開催した展覧会で集めた協賛金、寄付金で地元の村に博物館を建て、住民参加型の開発の実験的プログラムも実践してきている。神殿を中心にまとまる過去と現代の社会双方に注目しながら、「文明の創造力とは?」という問いを掲げて、今年も南半球の国へと足を運ぶつもりである。

(1998 『本の旅人』4(3):42-42 角川書店)

どうやって遺跡を発掘するのか?

■遺跡をみつける■

調査1
あやしいところに目をつける。ひたすら車と足をつかって探し回る。
調査2
下を向いて歩こう。幸せは土の上に!



■いざ、発掘!■

1.ペルー文化省の発掘許可をとる

許可証
ペルー文化省の許可証。申請から許可まで数ヶ月かかる。


2.作業員の選考

村集会
説明会を開催する
抽選
抽選で決定



3.使用する道具類
測量する

GPS
GPS
測量機器
測量機器



発掘する

発掘につかう道具
つるはし、スコップ、鉄製の掘り棒
発掘につかう道具
手にしているのは焼き鳥の串、日本の竹串も活躍中



整理、記録する

記録につかう道具
ノート、ペン、布袋、ビニール袋、荷札
記録につかう道具
図面にとる

記録につかう道具
写真を撮る
記録につかう道具
こんなふうにして撮ることも・・・

土器洗い
土器を洗う
記録につかう道具
一点一点記録する

蛍光X線分析装置
蛍光X線分析装置
パソコン
もちろんパソコンは必需品です

4.報告書を作成する

報告書
ペルー文化省に提出