はじめに―西アフリカを掘る
西アフリカ、マリ共和国の東部ガオ市の中心部に200メートル四方の空き地がある。「中世」に世界の金の交易を支配したマリ帝国最盛期の王カンクー・ムーサ王が、メッカ巡礼の帰途1325年に立ちより、モスクを建設したというので空き地のままに残された土地である。その表面には大きな石が点在していることは、西アフリカに関わる考古学者のあいだでは知られていた。ところが奇妙なことに今日までだれも手を着けようとはしなかったのである。
私たち、日本とマリの合同調査隊がこの空き地を訪れたのは2003年11月のことである。どこを掘るべきか。空き地の全体を注意深く観察し、石が集中している何箇所かを選び出す。それらの箇所を中心に表面のゴミや砂をとりのぞいていく作業の過程で、私とマリの考古学者ママドゥ・シセの見解は一致した。ここしかない。
その地点を中心に5m×5mの区画をさだめ、掘り下げていく。そこで私たちが見つけたのは、それまで西アフリカのどこでも発見されず、報告されたこともないものであった。地面のなかから現れたのは、焼き煉瓦で装飾された、厚さ1,2mの石造りの壁であった。さらに発掘をつづけた結果、それが幅約50m、奥行き約10mの巨大な建造物の入り口であることが判明した。そしてその北側からも、やはり石だけをもちいた建造物が現れてきたのである。
その後の発掘の結果、これらの建造物の大半が西暦10世紀の初めに建造され、同世紀の終わりには放棄されていたことが確認された。と同時に、西アフリカ考古学史上、類を見ないほどの出土品が現れてきた。ガラス製ビーズ2万5千個以上(ガラスはサハラ以南アフリカでは製造されなかったので、サハラ縦断交易の証言である)、銅製品百数十点(銅の破片は千点以上)、北アフリカ・ファーティマ朝の陶器片約50点、香水瓶と思われるガラス製品数十点。
私たちはこれが10世紀の王宮の跡だと考えている。その理由は、西アフリカで前例のないほど巨大な石造りの建造物であること、建造用の石は付近にはないので、遠方から運ばせる強大な権力が存在したと考えられること、北アフリカ産の陶器やガラス器、大量のビーズなど、交易品というより貢納品と思われる貴重な品々が出土していること。もしこれが王宮だとすると、これまで西アフリカでは過去の王宮が発掘されたことがないので、西アフリカで最初のかつ最古の王宮の発見ということになる。