人間文化研究機構ネットワーク型基幹研究プロジェクト地域研究推進事業 グローバル地域研究プログラム

近現代における食の空間と住まいの変容――知の循環と交流
代表:井坂理穂(環インド地域研究大阪大学拠点/東京大学総合文化研究科・教授)

キーワード

近現代、食、空間、住まい、近代、グローバル化、知の循環、ジェンダー、身体

目的

本研究は近現代の住まいにおいて、誰がどこでどのように食とかかわる行為(食べる、料理をする、食材を入手する、片付ける、ごみを捨てる、その他)を行っているのかに着目し、食をめぐる空間の使い方が通時的にどのように変化してきたのか、また、それと連動して住まいの構造や設備がどのようにつくり直されてきたのかを、その社会的背景とともに検討するものである。異なる複数の地域・社会集団の事例に焦点を当てながら、それぞれの住まいにおける食をめぐる空間の変化を相互に比較し、その共通性や差異を明らかにするとともに、それらの諸変化のあいだのつながりを検討する。

近代以降、グローバルな規模で人、モノ、知の循環・交流が活発化していくなかで、住まいの様式や住まいのなかでの空間の使い方、また、住まいの「あるべき」姿をめぐり、地域や社会集団を超えて広く共有される様式や考え方が現れるようになる。とりわけ食にかかわる空間には、西洋列強の政治権力と結びついたかたちで広まった衛生、身体をめぐる認識や効率性の観念、家族や男女のあり方をめぐる認識などが様々なかたちで反映されるようになる。また、こうした観念や認識とも絡み合いながら、食に関係する設備や用具などの新たなモノや技術が発達し、地域を超えて広まることで、食の空間に多様な変化がもたらされる。いうまでもなく、これらの変化の速度や具体的な形態は、地域や社会集団によって大きく異なっている。そこにはそれぞれに固有の歴史的背景や社会・経済状況のもとで、グローバルに循環する知や技術が、独自のかたちで解釈され、取捨選択的に取り入れられる様子や、在地の知や技術と交流しながら変化していく様子がみられる。

本研究は、異なる地域・社会集団を扱う複数の研究者たちが集まり、近現代の住まいにおける食にかかわる空間の通時的変化を比較することで、いわゆる「近代化」「グローバル化」がそれぞれの地域や集団でもつ多様な意味合いや、それらの現れ方を考察することを目指す。また、「食」にかかわる行為として、家庭のなかで食べる、調理をするという側面だけではなく、食材を入手する、保存する、洗う、ごみを捨てる、もてなすなどのその他の行為や、住まいの「外」において食事をとる場面をも視野に入れることにより、人々の食にかかわる行為を広く捉え、それらの活動にかかわる空間の広がりや、それぞれの空間の変化の相互関係に着目する。このことは、近現代の食を語る際に、家庭の調理場や食卓に焦点が当てられがちな状況を見直し、それぞれの地域や社会集団における食のあり方や食をめぐる認識の変化を、より多角的に捉えるのに寄与するものともなるだろう。このように本プロジェクトは食の歴史研究としての側面をもちつつも、同時に食をめぐる空間という観点から「住まい」の多様性やその変化を明らかにし、「住まい」とは何かを改めて問い直すことを目指している。異なる地域や集団において、様々な知が循環・交流するなかで、人々はどのように「住まい」を捉え、各々の状況にあわせて「住まい」をつくり、その「住まい」に変容を加えていくのか。こうした根源的な問いを、本プロジェクトは食をめぐる空間の分析を通じて検討しながら、より長期的、包括的な「住まい」研究に向けての足がかりを築く。

参加メンバー

井坂理穂 東京大学 環インド洋地域研究大阪大学拠点
宇田川妙子 国立民族学博物館 グローバル地中海地域研究国立民族学博物館拠点
河合洋尚 東京都立大学 海域アジア・オセアニア研究東京都立大学拠点
菅瀬晶子 国立民族学博物館 グローバル地中海地域研究国立民族学博物館拠点
鈴木英明 国立民族学博物館 環インド洋地域研究国立民族学博物館拠点
野林厚志 国立民族学博物館 海域アジア・オセアニア研究国立民族学博物館拠点
三尾稔 国立民族学博物館 環インド洋地域研究国立民族学博物館拠点
山根聡 大阪大学 環インド洋地域研究大阪大学拠点

研究活動

http://www.tindas.c.u-tokyo.ac.jp/?page_id=110