人間文化研究機構ネットワーク型基幹研究プロジェクト地域研究推進事業 グローバル地域研究プログラム

日本の客家――環シナ海の華僑華人ネットワークをめぐる再検討
代表:河合洋尚(海域アジア・オセアニア東京都立大学拠点/東京都立大学・准教授)

キーワード

客家、日本、物質文化、華僑華人ネットワーク、客家団体

目的

本研究は、日本に住む客家に焦点を当て、環シナ海で形成されてきた華僑華人ネットワークの一側面を明らかにすることを目的とする。

客家は、世界各地に居住する華僑華人の一集団である。客家をめぐる研究は19世紀後半から存在しており、中国本土の他、台湾、東南アジア諸国、インド、北米などに居住することが、これまでの研究で明らかにされてきた。さらに、提案者が2018年12月に国立民族学博物館で主催した国際シンポジウムでは、南半球に華僑華人の二大系統があり、その一つが客家であることが判明した(河合洋尚・張維安編『客家エスニシティとグローバル現象』SER150、中国語、2020年)。客家をめぐる研究は、中華圏や欧米諸国だけでなく日本でも豊富な研究蓄積があるが(簡美玲・河合洋尚編『百年往返』、中国語、2021年)、その一方で見落とされてきたのが日本国内の客家をめぐる研究である。日本客家の研究は、2015年頃に提案者や下記参加予定研究者の一部が着手するまで、ほぼ空白の状態であった。現在は、日本客家団体との連携のもとで一定の研究成果が出されているが、まだ萌芽的な段階にとどまっている。

客家と日本のつながりには約150年の歴史がある。まず、1870年代頃から広東省梅県の知識人が日本に赴きはじめ、その一部が日本に留まる一方で、多くが中国に帰国した。さらに、一部の商人は、梅県―香港―インドネシア―日本の間の交易ネットワークを築いた(陳来幸「20世紀初頭における客家系華商の台頭」、2016年)。他方で、1895年に日本が台湾を植民地化すると、台湾の客家が日本本土に移住するようになった。第二次世界大戦直後の1945年、日本に留まった客家は日本最初の団体を組織し、現在では、東京崇正公会、関東崇正公会、名古屋崇正公会、関西崇正公会、沖縄崇正公会という5つの客家団体を結成するに至っている。彼らは年に数回のイベントを開始するとともに、日・中・台をはじめとする環東シナ海間の(部分的には北米との)ネットワークを築き上げた。

これまで、客家をめぐる研究は、国や地域を基盤として研究される傾向が強かったため、このような海を越えたネットワークには一部の先駆的な研究を除きほとんど焦点が当てられてこなかった。本研究は、特に日本とかかわってきた客家が残してきた文書や物質(手紙、手記、証明書、会誌、写真、扁額、生活用品など)に焦点を当てることで、これまで知られることの少なかった環シナ海の華僑華人ネットワークの一端を解明する。同時に、本研究は、客家研究や日本華僑研究に従事してきた研究者だけでなく、客家団体に在籍する日本客家研究者(周子秋、范智盈)とも連携し、日本の客家とその海を越えたネットワークに関する書籍の刊行、および調査対象となる資料を活用した展示を開催する計画でいる。日本へ移住した客家の第一世・第二世はすでに高齢になり、彼らの移住や生活の軌跡となる資料破棄されはじめている。したがって、そうした貴重な資料を収集し残すことが、日本客家団体と日本客家研究の双方にとって喫緊の課題となっている。

本研究は、日本客家団体の協力のもとでこれらの資料を収集・解読し、書籍や展示の形で社会に公開する、公共人類学としての活動をおこなうことを目標としている。

参加メンバー

河合洋尚 東京都立大学 海域アジア・オセアニア研究東京都立大学拠点
奈良雅史 国立民族学博物館 東ユーラシア研究国立民族学博物館拠点
韓敏 国立民族学博物館
陳来幸 ノートルダム清心女子大学
飯島典子 広島市立大学
小林宏至 山口大学
横田浩一 東京都立大学 海域アジア・オセアニア研究東京都立大学拠点
神宮寺航一 東京都立大学
渡邊泰輔 東京都立大学
范智盈 大阪大学
周子秋 関東崇正公会

2022年度の研究活動