漁撈の生態人類学

漁撈はおもしろい生業です。既成の道具や技能の寄せ集めによる簡単なものもあれば、最新鋭の機器やボートを駆使した大規模かつ組織的になものもあります。このバリエーションを無視して一般化することはむずかしいものの、漁撈の持続的発展は人類の未来を背負っているといってもよいでしょう。なぜなら、増えつづけていく人口にじゅうぶんな食糧を供給していくうえで、漁撈を持続させていくことは必要不可欠ですから。

産業の進歩というと、投資規模の拡大や機械化に結びつけて考えられがちですが、漁撈の発展にとってそれは得策ではありません。ひとつの魚種を求めて漁場を外へ外へ拡大していくエヴォリューション(拡大的展開)でなく、利用されていない資源を身近に見いだすインヴォリューション(集約的深化)こそが、かぎられた海洋域を深く知り、漁獲を増加する数少ない方途であるように思います。

集約的な漁撈の深化のために、われわれは小規模漁業から多くを学ばねばなりません。投資を最小限におさえつつ最大の漁獲を得てきた漁師たちは、海のすみずみを知りつくしているだけでなく、あらたな知識や道具に触れるやいなや、新奇な漁法を編みだす創造性に富んでいます。小規模漁業が周囲の自然環境や社会経済といかに関わるかを明らかにすることは、われわれが地球上に生きながらえる知恵を経験として身につけるうえで、もっともっと大がかりに進めてよいプロジェクトだと思います。