KIKUSAWA Ritsuko

散歩道(エッセイ集)

休暇とバカンス (8) フィジーのピクニック

 「来週行くよ!」と、滞在先の「お母さん」のいつものほがらかな声。なに?どこに行くの?と問い返す私に、ほら、英語でなんとかって、そうそう「ピクニック」だよ、「ピクニック」。楽しみにしておいで。うーん、なんだかよくわからないけど。そして、そのままその日がやってきた。

 普段は波うち際でたぷたぷ浮いているだけの舟にモーターがつけてある。次々と乗りこんで出発進行!真っ青な空の下、でこぼこの水面を、水しぶきを上げて岬をぐるっとまわると、白い砂浜が現れた。

 息をつく間もなく男たちはスピアガンや銛(もり)を手に潜水、女たちは腰までつかって浅瀬の獲物をさがす。薪(まき)を集めて火をおこす者、水を汲(く)みに行く者。なぁんだ、「ピクニック」って、集団で行く漁のことなんじゃない。…殻からはずされたらタコのようにみえるおおきなシャコガイ、かけらをちぎって海水で洗い「食べてごらん」。砂浜で焚(た)き火を囲む昼食は、やっぱりいつもより行き交う冗談と笑いが多い。うーん、「ピクニック」って名訳。

 帰りは岬を逆にまわる。獲物は伝統に従ってみんなに平等に分配。食卓には新鮮な魚、私のノートにはたくさんの魚の名前。そして明日から村は、またいつもの暮らし。

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