ジョージ・ブラウン写真コレクションの原板約900点がシドニーのオーストラリア博物館で保管されている。ブラウンは1875年から写真撮影を始めており,南太平洋に関する映像記録としてはもっとも初期のものといえる。幸い,わたしはそれらのすべてをみる機会があった。
ウッドラーク島の島人とジョージ・ブラウン、1880年代 写真提供:オーストラリア博物館 |
布教にやってきた伝道協会の船と現地のカヌー ニューギニア、1897年 |
1875年に設置された布教所と改宗した島人 デュークオブヨーク諸島、1870年代後半 |
写真コレクションの第一印象はブラウンの写真術の確かさである。乾板写真であるにもかかわらず,鮮明な写真をとっている。ポーズをとらせた静的な写真だけでなく,海を帆走するカヌーなど動的な対象の写真も鮮明である。
ブラウンは多岐にわたる対象を写真におさめている。信者,布教所,現地の宣教師,伝道団の船などの伝道記録写真をはじめ,衣装,集落,かごづくり,筌づくり,ヤムイモの収穫,各種の儀礼などの民族誌写真,さらに植物や自然景観などの博物誌写真など多様である。それは,まさにブラウンの多彩な人生の諸側面(宣教師だけでなく,民族誌家,博物誌家など)を象徴している。
ブラウンは,南太平洋におけるもっとも先駆的な写真家であり,19世紀の民族文化や自然に関して,貴重な映像記録を残した点が評価できる。おそらく,現存の写真コレクションに倍する写真を撮影したはずであるが,もはや全容を知るすべのない点が惜しまれる。
ピーター・マシウス 国立民族学博物館
この文は1999年に国立民族学博物館で開催された特別展「南太平洋の文化遺産―ジョージ・ブラウン・コレクション」の図録より抜粋しました。
『国立民族学博物館研究報告別冊(Bulletin of the National Museum of Ethnology. Special Issue) 21 オセアニア近代史の人類学的研究 ─接触と変貌,住民と国家─』 (2000)に掲載された論文( PDFファイル)
『国立民族学博物館調査報告(Senri Ethnological Reports) 10 ジョージ・ブラウン・コレクションの研究』(1999)に掲載された論文( PDFファイル)