機関拠点型 基幹研究プロジェクト「フォーラム型人類文化アーカイブズの構築に基づく持続発展型人文学研究の推進」推進型プロジェクト(2022~2023年度) 第一次東南アジア稲作民族文化綜合調査のアーカイブス構築─タイの写真資料を中心に─
機関拠点型 基幹研究プロジェクト「フォーラム型人類文化アーカイブズの構築に基づく持続発展型人文学研究の推進」推進型プロジェクト(2022~2023年度) 第一次東南アジア稲作民族文化綜合調査のアーカイブス構築─タイの写真資料を中心に─

第一次東南アジア稲作民族文化綜合調査について

東南アジア稲作民族文化綜合調査は、1954年に創設20周年をむかえた日本民族学協会が「民族学界の緊急かつ重要な課題」として企画した記念事業の総合調査です。当時の日本民族学協会は、会長が渋沢敬三、理事長が岡正雄で、その下に東南アジア稲作民族文化綜合調査委員会が組織されました(敬称略)。

1957年3月に記された第一次調査にむけた趣意書によれば、委員長は岡正雄がつとめ、幹事には馬淵東一、白鳥芳郎、河部利夫、松本信広(団長)、浅井恵倫、八幡一郎、関敬吾、宮本延人、西村朝日太郎、山本達郎、蒲生礼一が名を連ねています。

第一次調査の対象地域は、東南アジア大陸部のメコン川流域を中心とするタイ、ラオス、カンボジア、ベトナムを予定していましたが、政情によりベトナムでの調査は行われませんでした。その後は、1960年にインドネシアを主たる対象とする第二次調査、1963年にはインドやネパールへの第三次調査が行われています。

本プロジェクトが対象とする第一次調査は、1957年8月28日に先発隊が日本を出発してから、最後の班が帰国した1958年4月28日までの約8ヶ月にわたっています。

第一次調査の参加者は、以下の計17名です。
団長 松本信広
農学班 浜田秀男、長重九
言語学班 浅井恵倫
民族学班 河部利夫、岩田慶治、綾部恒雄
考古・歴史学班 松本信広、清水潤三、江坂輝弥
技術文化班 八幡一郎
現地参加 和田格、石井米雄
読売新聞社報道・写真・映画班 為郷恒淳、福島武、石田修、桜井清寿、伊藤義一

第一次調査の主な成果としては、松本信広編(1965)『インドシナ研究─東南アジア稲作民族文化綜合調査報告(1)』有隣堂が刊行されたほか、一般向けの書物として、東南アジア稲作民族文化綜合調査団編(1959)『メコン紀行─民族の源流をたずねて』読売新聞社も出版されています。ほかに、1959年刊行の『民族学研究』22(3-4)、23(3-4)には「東南アジア稲作民族文化綜合調査 座談会」が2回にわたって掲載され、個別の論文も様々な媒体で発表されています。

当時の調査において団員などが現地で撮影した写真や収集品が大量に残されており、現在はその多くが国立民族学博物館に所蔵されています。本プロジェクトは、第一次調査の中でもタイで撮影された写真資料を主たる対象とするものです。

本プロジェクトは、国立民族学博物館(民博)が所蔵する第一次東南アジア稲作民族文化綜合調査(1957−58年)で撮影されたタイの写真資料を中心とするアーカイブズの構築を目的としています。

1957-58年の調査で撮影された写真の基礎情報を軸とし、新たに現地追跡調査で得られる情報を付加することを目指します。そのことを通して、特に写真が撮影されたソースコミュニティやタイの現地研究者との協力関係を築くことも重視します。

当時の調査に関連する研究成果・論文や民博所蔵の標本資料情報も関連づけたアーカイブズとしていく予定です。ほかに、神奈川大学日本常民文化研究所に所蔵されている当時の調査団を組織・派遣した日本民族学協会(後の民族学振興会)の事務的な文書資料なども関連資料と位置づけられるでしょう。

1950年代後半の調査団によって撮影された写真資料を軸として、現地追跡調査による聞き取り、研究論文、標本資料、事務的文書資料などを総合的に関連づけた新たな学術基盤とすることで、研究者、現地社会、一般社会が相互に協働・共有しえる方法の可能性を模索します。