大学共同利用法人 人間文化研究機構 国立民族学博物館 科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(A)<br>北米アラスカ・北西海岸地域における先住民文化の生成と現状、未来に関する比較研究(2019-2023)

研究動向の紹介

研究動向の概略

文化人類学分野では、フランツ・ボアズによるジェサップ北太平洋調査(1897-1902)の実施以降、北太平洋沿岸地域のアジア側とアメリカ側の先住民文化(各先住民族の生活様式)の類似性(歴史的関係性)を解明することが大きなテーマでした。そして学史的に見ると、この分野では20世紀後半以降、日本人研究者による貢献がきわめて大きいといえます。

北太平洋沿岸地域の先住民社会はサケ・マス漁および海獣狩猟を共通の基盤としてきたため、言語や民族的アイデンティティが多様である一方、生業活動や文化的側面には共通点が多く認められました。渡辺仁(当時、東京大学)は、この北太平洋沿岸地域の先住民社会を「北洋文化圏」と命名し、生態人類学的な視点からその類似性と差異の解明を試みました。また、言語学者の宮岡伯人(当時、北海道大学、京都大学)は同地域における言語的類似性と差異の解明を試みる一大プロジェクトを実施しました。さらに、谷本一之(当時、北海道教育大学、北海道立北方民族博物館)は海外の研究者とともに100年たったジェサップ北太平洋調査の追試検証を行ないました。そして岸上伸啓(国立民族学博物館)は、2014年1月に国立民族学博物館において環北太平洋地域の先住民文化を比較する国際シンポジウムを開催し、その成果の一部を『環北太平洋地域の先住民文化』(2015)として出版しました。しかし、これらの研究は同地域内の諸文化や諸言語の理解を深化させた一方、同地域内での文化的・言語的共通性を十分に説明することや理論的に一般化することはできませんでした。

これまでの研究経緯を考慮して、最終的目標を環北太平洋沿岸地域の諸先住民文化の歴史的関連性を解明するだけはなく、欧米人らとの接触後、その地域の諸文化がどのように変化してきたか、そしてどこに向かっているのかを解明することと考えています。その第1段階として、これまで日本人による研究蓄積のあるアラスカ地域と北西海岸地域から調査研究を行い、その後にアジア側の環北太平洋沿岸地域の諸先住民文化に関する比較研究を海外の研究者とともに実施することがより現実的であると考えています。

国立民族学博物館共同研究「環北太平洋地域の先住民社会の変化、現状、未来に関する学際的比較研究――人類史的視点から」(2020.10-2023.3)の実施

国立民族学博物館では、2020年10月より環北太平洋地域の先住民社会の変化、現状、未来に関する学際的比較研究の共同研究プロジェクトを開始しました。

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北太平洋地域研究ネットワークの設立の動き

近年、欧米人の文化人類学者や考古学者、歴史家の間で北太平洋沿岸地域の先住民文化への関心が高まっています。岸上伸啓は、アラスカ大学のデビッド・ケスター(David Koester)教授らと協働して2012年1月に国立民族学博物館において国際シンポジウム"Comparative Studies of Indigenous Cultures around the North Pacific Rim: Focusing on Indigenous Rights and Marine Resources"を国内外から28名の報告者・コメンテーターを招へいして開催しました。その後、このシンポジウムに参加したトーマス・ソートン(Thomas Thornton)らは、2014年開催の極北社会科学国際会議や2015年9月にウィーン大学で開催された第11回国際狩猟採集社会会議において北太平洋沿岸文化に関するセッションを開催した。

この流れを受けて、ワシントン大学のベン・フィッツヒュー(Ben Fitzhugh)、アラスカ大学フェアバンクス校のデビッド・ケスター(David Koester)、国立民族学博物館の岸上伸啓、北海道大学の高瀬克範らが中心となって北太平洋地域研究ネットワークの設立を準備中です。

一般公開シンポジウム「環北太平洋地域の先住民社会の先史、言語、文化」(2022.10.29-30)の開催

2022年10月29日(土)/30日(日)に国立民族学博物館 第4セミナー室(ウェブ開催併用)において一般公開シンポジウム「環北太平洋地域の先住民社会の先史、言語、文化」を開催しました。

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企画展「カナダ北西海岸先住民のアート――スクリーン版画の世界」(2023.9.7~12.12)の開催

2023年9月7日~12月12日に国立民族学博物館(企画展示場)において企画展「カナダ北西海岸先住民のアート――スクリーン版画の世界」を開催しました。

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国際シンポジウム“Prehistory, Language and Culture of Indigenous Societies in the North Pacific”(2023. 11.3-5)の開催

2023年11月3日(金)~5日(日)に国立民族学博物館 第4セミナー室(ウェブ開催併用)において国際シンポジウム“Prehistory, Language and Culture of Indigenous Societies in the North Pacific”を開催しました。

詳しくは、関連ウエブサイトをご覧ください。