お使いのブラウザは古いバージョンのインターネットエクスプローラーです。レイアウトを簡略版に切り替えて対応しています。

インド洋津波復興の様子と課題

スリランカ南岸の事例から

調査の概要

 2004年12月26日の朝に発生したインド洋地震津波はスリランカの北西岸の一部を除く沿岸部に壊滅的な被害を与えた。またスリランカでは1980年代から2009年まで続いた内戦により、国内避難民の多くが避難民キャンプで暮らしていた。そのために内戦(=人災)と津波(=天災)の2つの災害からの復興が課題となっている。そのひとつが被災者を対象とする異なる種類の移転・移動に関するものである。避難民キャンプで暮らしていた家族に対しては故郷への帰還であり、津波被災家族に対しては海岸部から離れた内陸部に再定住地として新しく建設された住宅団地への移転である。
 本研究では後者つまり津波からの復興の状況に関して南岸のマータラ県とハンバントタ県で複数の再定住地を訪問し実態調査を実施した。調査方法は、役場と復興支援活動を行っているNGOからの基礎的なデータや情報の収集に加えて、再定住地に移転した被災家族と親戚の家などに暮らす被災家族を訪問しての聞き取り調査である。
  • 灌木を伐採して開かれた再定住地。

復興の様子と問題点

 非戦闘地域であった両県では再定住地となる土地の確保から住宅建設、そして被災家族の入居までは他の県と較べて速やかに行われた。政府が提供した土地に支援団体が住宅を建設する方法がとられた。津波から2年後には全被災家族の移転が完了したことになっている。しかしながら住宅建設を終えた支援団体の多くが引き上げてしまったことや、公的機関も被災家族の移転の終了をもって支援の終了とする風潮があり、入居後の生活再建には多くの困難が生じている。付近の環境が未整備のまま短期間で建設された住宅に欠陥がある場合は住民が自力で補修をしなければならない。補修のための部品の確保やそのための資金不足などの問題が生じている。内陸の再定住地までのバス路線の整備が遅れており、通学、通院、日常の買い物などに支障をきたしている。とりわけ沿岸漁業に従事していた小規模な漁民は漁場へのアクセスが奪われたこと、つまり浜や港まで遠くなったことに加えて、毎日海の様子を見てその日の操業計画をたてるということが不可能になったことで、生活再建が困難な状況にある。ハンバントタ県の再定住地の多くは野生象の生活圏に近接しており、夕方以降の外出には危険が伴う。また生業や社会的背景の異なる被災者によって人工的にできた新たなコミュニティの行政組織が整っていないため、住民の声が上にまで届きにくい。
  • 再定住地に建てられた同じ企画の家。

  • 再定住地。夜には象も出没する。

問題克服に向けての動きと今後の課題

 津波から5年余が経過し、一部のコミュニティでは少しずつではあるが、リーダーシップをとる人を核に新たな動きが見られるようになった。たとえば雨がふれば水があふれ出す側溝を自分たちで補修する、夕刻になると真っ暗になる危険な道に街頭をつけるなどの労働奉仕を行っている。このような活動の成功により、さらに役場にかけあってバスを通してもらう、提供された住宅を住みやすく改善する、周囲の環境整備のための資金を確保しようという動きもある。多くの支援団体が引き上げた後も現場に残って地道な活動を続けているNGOが役場や外国の援助機関とのパイプ役を果たしている例もある。野生象が出没する場所には電流の通る鉄線を張り巡らす作業も進められるようになった。
 一方で空き家の目立つ再定住地もある。漁民にとっては海から遠い場所への移転は出漁に支障をきたすのは当然である。また沿岸漁業に従事していた漁民にとっては熟知している場所での操業が望ましい。つまりかつて住んでいた漁村の地先での操業を復活させることである。住みにくい住宅や、近所に知っている人が少ない場所でしかも生活するのに不便であれば、もといた場所に戻りたいのは当然である。そのため以前住んでいた村や町に戻り、親戚の家に同居するか、自力で家を建てて新たな生活を開始した家族もある。
 このように、再定住地の様子も5年間で変化している。有志を中心に身の回りの環境整備から始まり、行政への働きかけを行うケースは、多くの場合はいわゆる向こう三軒両隣(ひとつのブロック)レベルにとどまっているものの、今後再定住地におけるコミュニティレベルの動きにまで拡大し、環境に積極的に働きかける可能性もある。しかし、一部の住民がもとの住まいの近くに戻ってしまっている再定住地の場合は、コミュニティとしての今後が懸念される。
 本研究では、今後も両県での再定住地での実態調査を実施するとともに復興と生活再建における問題点とその解決について考察を続ける。
  • マータラ県の再定住地。

  • 再建のための団結を呼びかける看板