プロジェクトの目的
本プロジェクトは、本館が所蔵するバスケタリー関連資料を対象に、新たなデータベース「海域東南アジア・オセアニアの樹皮布とバスケタリー」データベースの構築と活用にある(対象資料数は約3100点、各資料につき2~3の写真含む)。具体的には以下の三項目となる。
(1)日英語による新DBの構築:樹皮布のほか、植物素材をマテリアルとする本館のバスケタリー関連資料を対象とした新たなデータベースの構築を行う。また必要に応じて標本の写真のアップデート、他博物館の関連標本のリンク付けの実施
(2)新DBの構築に伴い、収集地における現地機関との協働:現地の文化行政・教育機関や博物館との協働の打診・情報提供の依頼・情報交換。
(3)現地住民のビジビリティの向上:新DBに関連する標本情報のSNSへの投稿
(4)新たなDBの構築において促進した国内外の研究者・研究機関との連携強化をベースとした国際シンポジウムや国際ワークショップの開催
プロジェクトの内容
本プロジェクトは、本館が所蔵するバスケタリー関連資料を対象に、新たなデータベース「海域東南アジア・オセアニアの樹皮布とバスケタリー」データベースの構築と活用を目的として計画された。本プロジェクトの第一の目的は、海域アジア・オセアニアを対象にした植物素材の物質文化、とくに樹皮布やバスケタリーに関連する物質文化を人類史的視点から探究し、海域アジアとオセアニアという島嶼世界における植物素材の物質文化における共通性や相違性を明らかにする点にある。
本プロジェクトは、先行するフォーラム型情報ミュージアムプロジェクト「海域アジアにおける人類の海洋適応と物質文化―東南アジア資料を中心に」(代表:小野林太郎)におけるデータベースの作成とプロジェクトの成果の中で、海域アジアとオセアニアの両地域で比較的類似性の高い植物素材の漁具が存在することを確認した。とくに注目されるのは、マレー・インドネシア語でブブと呼ばれる筌や罠漁用の籠である。これらはラタンや竹などを素材として各地で製作・利用されてきたが、同じようなバスケタリーは漁具に限らず、背負い籠など内陸・山岳地帯でも使われており、主に漁具に注目した先のプロジェクトのみでは全てをデータベース化することが困難であることも明らかとなった。そこで本プロジェクトでは、こうした内陸・山岳部における植物素材の物質文化も対象にするため、島嶼地域の沿岸部から内陸部に広く分布する物質文化として、バスケタリーに焦点を当てる。
同じくカジノキを素材とする樹皮布は、人類史的には南中国を起源地として、新石器時代以降のオーストロネシア語族の移住・拡散のプロセスの中で東南アジア島嶼部からオセアニアの各地へとその技術と物質文化が広がったことが、考古学的研究や近年のカジノキを対象とした遺伝研究により明らかとなりつつある。そこで本プロジェクトでは本館がもつ豊富な樹皮布関連の標本資料ならびにそれらに関連した民族誌、映像、考古資料、歴史史料をもとに探究することも目的に加えた。
これらの研究目的を達成するために、本プロジェクトでは本館の所蔵する標本資料の中から、主に東南アジアとオセアニアを含めた島嶼地域の資料を対象とし、素材、用途も含めた機能、製作技術等の情報を網羅的に収集する。またそれらの分析を通じて、人類史や生態文化的双方の脈絡を考慮しつつ、対象とする物質文化に関して地域間比較の視点も含めた再検討を実施する。また本プロジェクトでは、現地調査に加え、国内外の研究者とともに資料情報を相互に検証するケーススタディも計画している。これらの取り組みから、海域アジア・オセアニアにおける樹皮布文化やバスケタリー文化を総合的に再検討するのが最終的な目的となる。
期待される成果
本プロジェクトの成果としては、以下の5点が期待される。
- 海域アジア・オセアニアのバスケタリー文化・樹皮布文化に関わる地域間比較の方法論の確立。
- 海域アジアとオセアニアのバスケタリー文化・樹皮布文化における地域性と共通性の解明。
- 海域アジアとオセアニアのバスケタリー文化・樹皮布文化に関する統合的データベースの多言語で構築(対象資料数はバスケタリー関係:約2100点、樹皮布関連:約900点の計3100点分)により、オンライン上で資料検索を可能にする環境を研究者コミュニティに提供。
- 本プロジェクトを推進するうえで不可欠な組織体制を構築するために、国内外の機関と学術交流を締結するとともに、資料のソースコミュニティとの協力体制を築く。
- データベースに加え、国際シンポジウムの開催や成果本の出版により、本館が海域アジアとオセアニアのバスケタリー文化・樹皮布文化研究に関わる中核機関の一つとしてアピールし、本館の共同利用性を高める。
- 本プロジェクトを推進する上で行われる調査と研究に、若手研究者やソースコミュニティの幅広い参加によって広く民際的な研究を促すことで、次世代の研究者の養成も目指す。