大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 国立民族学博物館

English

A Study of the Material Culture of Aboriginal Australians, with a Focus on the Minpaku Collection / Project for Basic research (project period: 4years) / HIRANO Chikako

プロジェクトの目的

 本プロジェクトの目的は、本館に所蔵されるオーストラリア先住民の学術資料をアーカイブス化し、オンライン学術情報基盤を確立することで、オーストラリア先住民の物質文化に関する研究を推進し、現地社会や国内外の専門家との協働を通してこれらの資料がもつ社会的な意味や位置づけを検討することである。具体的には、本館所蔵の3684点のオーストラリア先住民資料の情報をもとに、英語、日本語で閲覧可能な情報データベースを構築する。情報データベースの構築にあたり、学術資料に関連する現地住民や国内外の分野専門家と連携しながら資料情報の追加・精緻をおこなう。これらの情報データベースを用いて現地調査や共同研究、国際ワークショップなどの研究交流活動をおこない、それらの知見にもとづいて当館が所蔵するオーストラリア先住民資料の国際的共有化の可能性とその意義について考える。

プロジェクトの内容

 本プロジェクトでは、現地社会との協働によってオーストラリア先住民資料の新たなアーカイブスを構築し、オーストラリア先住民の物質文化に関する研究に資するための学術的な基盤を強化する。それらを通して、本館所蔵のオーストラリア先住民資料がもつ意義を明らかにし、より発展的な共同利用の可能性を検討する。  本館には、3684点に及ぶオーストラリア先住民関連資料が収蔵されている。その内訳は、東京大学から委託された資料128点、1982年から2004年まで行われた本館の一連のオーストラリア先住民研究プロジェクトを通じて収集された資料3245点、その他、本館によって購入された資料311点である。これらの学術資料は日本のオーストラリア先住民コレクションの大半を占めており、それらの情報はすでにデータベース化され、一般公開されている。
 しかし、現行の情報データベースの表記は日本語のみであり、記載内容も十分ではない。また1970年代以降、先住民の遺骨・副葬品の返還要求の流れにともない、博物館に収蔵されるオーストラリア先住民の物質文化の返還を求める声も高まっていることから、本館に所蔵される学術資源情報のさらなる精緻・体系化が求められる。そのため、まず英語・日本語で閲覧可能な情報データベースを作成し、先住民当事者の要請に対応すると同時に学際的かつグローバルな視座にたつ研究を発展させる基盤を確立することを目指す。
 オーストラリア先住民資料のアーカイブスを構築するにあたり、文化の担い手である現地住民との協働は不可欠である。これらの協働の基盤を構築するために、本プロジェクトのメンバーには現地社会と良好な関係を築いている研究者や学芸員らを迎える。さらに、国内外の若手研究者らをメンバーに加えることで若手研究者養成をはかるとともに、現地住民との新たな協力関係を構築し、持続発展型の学術研究を推進する。
 オーストラリア先住民資料に関する情報の集積と体系化を進めるにあたり、日本語と英語で閲覧可能となった情報データベースを活用しながら、現地社会との協働にもとづく双方向型の研究を進める。さらに現地社会と国内外の大学・研究機関、博物館との連携を強化するために国際ワークショップを開催し、オーストラリア先住民資料の情報収集のプロセスについて紹介するとともに、それらの文化資源情報がもつ意義と今後の展開可能性について意見交換をおこなう。そこで得られた知見は学術論文や図書として公開し、研究者コミュニティ、現地社会、一般社会の三者のプラットフォームのさらなる拡張をはかる。

期待される成果

 本プロジェクトで期待される成果は以下の6点である。
1)本館所蔵のオーストラリア先住民に関する文化資源情報の精緻・体系化を促進し、オンライン学術基盤を確立する。
2)オーストラリア先住民資料の多言語プラットフォームとして、現地社会の文化の保全や復興に貢献する。
3)情報データベースを活用した共同研究や国際ワークショップ等の研究交流活動を通じて、オーストラリア先住民の物質文化に関する研究に新たな知見を提示する。
4)国内外の研究者、現地社会、一般社会の相互交流を促進し、国際的な共同研究の基盤を強化する。
5)本館で蓄積されてきたオーストラリア先住民研究プロジェクトの学術資源を継承し、新たな研究に展開していけるような若手研究者を養成する。
6)共同研究や国際ワークショップを通して得られた知見を、学術論文や図書の刊行を通じて一般に広く発信する。

2022年度成果

 今年度は研究計画に従い、主に3点の調査研究をおこなった。
1)オーストラリア先住民の標本資料に関するデータの整理、日本語、英語による資料台帳の作成、ならびに絵画に貼付されている未収録情報の文字起こしと英語から日本語への翻訳をおこなった。これらの作業を実施する際には専門的知識を有する研究者らの協力を得て、情報の精緻化も進めた。
2)オーストラリア国立博物館とアボリジニとトレス海峡諸島民研究所(AIATSIS)、クイーンズランド博物館を訪問し、プロジェクト内容についての打ち合わせ・研究協力依頼をおこない、持続的な連携を確認した。
3)オーストラリア先住民の標本資料の主な収集地である北部と中央部に赴き、情報収集をおこなうと同時に、連携機関や現地社会とのネットワーク形成を進めた。

研究の業績

◆ 研究ノート
  • 「先住民とデジタル化する社会 : 先住民研究の新しい枠組みに向けて」近藤祉秋, 平野智佳子『国立民族学博物館研究報告』 48(1) 1-44 2023年11月
◆ 分担執筆
  • 「アボリジナルアート」平野智佳子『シリーズ地域研究のすすめ ようこそオセアニア世界へ』石森大知・黒崎岳大編、昭和堂 282-283 2023年1月
◆ MISC
  • 「モノと人をつなぐ―新たな知の創造に向けて」平野智佳子『民博通信Online』 9(173) 2024年3月
  • 「タイムカプセルを開く―1980年代のオーストラリア先住民の暮らし」平野智佳子『月刊みんぱく』 47(9) 16-17 2023年9月
  • 「砂漠でわらを編む―オーストラリア先住民の手工芸品」平野智佳子『季刊民族学』183、千里文化財団。 70-77 2023年1月
◆ 口頭発表
  • 「オーストラリア先住民のアート」平野智佳子 みんぱくウィークエンド・サロン、国立民族学博物館、ナビひろば 2023年12月3日
  • 「オーストラリア先住民のアーカイブ構築プロジェクトについて」平野智佳子 令和5年度MMP新規会員研修、国立民族学博物館 2023年9月16日
  • 「デジタル返還の展望と課題─オーストラリア先住民の物質文化に関するアーカイブズ構築プロジェクトを事例に」分科会「Returning Cultural (Research) Material: Policy, Research and Indigenous Community Perspectives across the Asia-Pacific Region」(代表:Yuriko Yamanouchi)平野智佳子 日本文化人類学会第57回研究大会、県立広島大学 2023年6月4日