プロジェクトの目的
1950年代半ばから2000年代まで学術活動を続けた故中根千枝東京大学名誉教授が調査研究に関わる活動において撮影した約6万点の写真(ネガフィルム、紙焼き)のデジタルデータに出来るだけ詳細な情報を付し、デジタルデータアーカイブズとして公開することをめざす。故中根氏が調査研究活動のため訪れた地域は、南アジア、中国、日本、欧米諸国等広範にわたり、かつ長い年月をかけて各地の撮影を行っているため、詳細情報を付与するためには各地域を専門とする研究者や当該地域の人びとの協力が不可欠である。本プロジェクトを活用し、多数の研究者や現地の協力者の共同によってデジタルデータアーカイブズを作成し、公開したい。
プロジェクトの内容
今回デジタルアーカイブズの作成を提案する写真資料(以下、本資料と略称する)は、日本における社会人類学の草分け的存在の一人である故中根千枝氏が社会人類学研究を志した1950年代以降の調査や学術関連の活動において撮影した資料である。氏の社会人類学的研究は、インド北東部の先住民系諸民族を対象とした研究に始まり、ブータンやネパールの諸民族、その後インド亜大陸中央部や南部のヒンドゥー教徒、さらには日本各地の農村、チベット、中国西南部の少数民族などへと展開し、日本からインドにかけてのアジア諸社会の親族構造や社会構造を総合的に比較する研究に結実している。
また氏は若くして当時社会人類学研究の最先端と目された英国や米国に留学して以来、世界各国の文化/社会人類学者など幅広い学界関係者と交流を重ねている。さらに、氏は東京大学東洋文化研究所等で研究教育に励むかたわら、日本国内だけでなく国際的な学術行政に関わる多数の委員会等の委員や議長を歴任している。例えば青年海外協力隊にはその事業立ち上げの時期から関与し、隊員の派遣先を数多く訪問して事業の実施状況を視察し、事業の発展への提言等も行っている。こういった目的のため、氏は世界各地を訪問し、学術やそれに関連した活動の記録として多数の写真を撮影している。
本資料にはこれら全ての調査、学術活動に関わる写真が含まれており、特に20世紀半ば頃のアジア諸社会、日本各地、あるいは欧米、オセアニア、南アメリカ、アフリカ等の状況を知るうえで非常に貴重な資料となっている。また、中根氏の活動の足跡を写真を通じてたどることは、20世紀半ば以降現代までのアジア研究、社会人類学の研究史、日本の学術行政史の総合的な理解にも資することとなる。
こういった資料を本館がデジタルアーカイブズ化し公開することは、社会人類学・民族学はもとより、アジアの地域研究、学術行政史などさまざまな分野の関心にこたえることにつながるだろう。
中根氏の研究活動や行動範囲は非常に幅広かったため、その全貌を把握し、写真に関する詳細な情報を付与して公開するには、さまざまな研究関心をもつ研究者や写真が撮影された現地の関係者の共同が不可欠である。そこで本プロジェクトの枠組みを活用し、多数の研究者等の協力に基づくデジタルアーカイブズを作成する。
期待される成果
故中根千枝氏の1950年代半ばから2000年代までの調査・研究・学術活動の足跡に即し、日本、東アジア、南アジア、欧米、東南アジア、オセアニア、西アジア、南米、アフリカ等の人びとの衣食住、生業、宗教実践、街並み、自然景観等の約6万点の写真アーカイブズが完成する。写真1点1点について、推定撮影時期、撮影地、被写体の基本情報が付与されるほか、主要な写真には文化/社会人類学、日本民俗学等の他分野の研究者や現地関係者によるより詳細な解説がつけられる。これらの情報は基本的には日本語で付与されるが、極力英語や中国語等多言語での記述もつけるようにする。