データベース:稲作調査団タイ写真データベース
国立民族学博物館が所蔵する、第一次東南アジア稲作民族文化綜合調査(1957-1958年)で撮影されたタイの写真資料約800枚についてのデータベースです。
プロジェクトの目的
本プロジェクトは、国立民族学博物館が所蔵する第一次東南アジア稲作民族文化綜合調査(1957−58年)で撮影されたタイの写真資料を中心とするアーカイブズの構築を目的とする。特にタイ北部チェンマイの現地研究者やソースコミュニティとの協力関係を築きながら、当時の調査で撮影された写真の基礎情報を軸とし、現地追跡調査で得られる新たな情報を付加する。さらに、当時の調査に関連する研究成果・論文や民博所蔵の標本資料情報も関連づけたアーカイブズとし、神奈川大学日本常民文化研究所に所蔵されている当時の調査団を組織・派遣した日本民族学協会(後の民族学振興会)の事務的な文書資料も関連資料として位置づけたい。写真資料を軸として、現地追跡調査による聞き取り、研究論文、標本資料、事務的文書資料などを総合的に関連づけた新たな学術基盤とすることで、研究者、現地社会、一般社会が相互に協働・共有しえる方法の可能性を模索する。
プロジェクトの内容
本プロジェクトは、国立民族学博物館が所蔵する第一次東南アジア稲作民族文化綜合調査(1957−58年)で撮影されたタイの写真資料を中心とするアーカイブズの構築を目的とする。東南アジア稲作民族文化綜合調査は、1954年に創設20周年をむかえた民族学協会が企画した記念事業の綜合調査である。第一次調査対象地域は、東南アジア大陸部のメコン川流域を中心とするタイ、ラオス、カンボジア、ベトナムであった。そこで撮影された写真資料は数千枚に及ぶが、本プロジェクトでは、まずはタイの約800枚に限定したアーカイブズを構築する。
本プロジェクト内容の特徴は主に以下の3点に整理できる。第1は、特にタイ北部チェンマイの現地研究者やソースコミュニティとの協力関係を築きながら、当時の調査で撮影された写真の基礎情報を軸とし、現地追跡調査で得られる新たな情報を付加する点である。現地研究者やソースコミュニティと協働して当時の写真を閲覧してもらい新たな情報を追加するという点において、アーカイブズを随時更新していく可能性が切り拓かれる。
第2は、写真資料のみならず、多様な媒体の情報を総合したアーカイブズの構築を試みることである。多様な媒体とは、当時の調査に関連する研究成果・論文と民博所蔵の標本資料情報であり、加えて、神奈川大学日本常民文化研究所に所蔵されている当時の調査団を組織・派遣した日本民族学協会(後の民族学振興会)の事務的文書資料などである。
上記と関連する第3の特徴は、写真資料を軸として、現地追跡調査による聞き取り、研究論文、標本資料、事務的文書資料を総合的に関連づけた新たな学術基盤として一般社会にも公開することによって、研究者、現地社会、一般社会が相互に協働・共有しえる方法の可能性を模索することである。軸となる写真資料は、言語や民族、地域を超えて、さらに時間的な断絶も超えて、共同で見て記憶を喚起しえるという点において、相互の協働・共有もしやすい可能性を秘めた媒体となりえる。
こうした学術基盤を活用したその後の研究の方向性としては以下の2点が考えられる。第1は、写真資料や関連する研究成果・論文から、当時の稲作文化に関する検討だけでなく、現在の追跡調査によって、20世紀後半に人類文化が経験した変容の一端を検討することであり、第2は、1950年代に日本の民族学協会が組織的に展開した海外の異文化に対する学術調査が、どのような視点でどのように行われたのかを検討し、その学史上における意義を検討することである。
本プロジェクトでは、上記の2点を中心とする検討が可能となるよう多様な媒体を含んだアーカイブズを現地研究者やソースコミュニティと協働して構築し、さらにそのアーカイブズを大学における異文化理解教育でも活用をはかることで、研究者、現地社会、一般社会とひろく共有しえるプラットフォームを模索する。
期待される成果
第一次東南アジア稲作民族文化綜合調査(1957−58年)で撮影されたタイの写真資料約800枚を中心として、(1)写真の基礎的情報、(2)現地追跡調査で付加される情報、(3)当時の調査に関連する研究成果・論文の情報、(4)民博所蔵の標本資料情報、(5)神奈川大学常民研所蔵の日本民族学協会(後の民族学振興会)事務的文書資料情報などを可能な限り関連づけたアーカイブズとする。
特に写真の基礎的な情報に関しては、英語での多言語化を行い、現地の研究者などが関連情報を随時Web上で付加できるシステムの構築も目指す。さらに、当時の調査行程に対応して地図上に写真が撮影された場所と日時を付加する可能性も検討する。
写真を軸とする多様な媒体を含んだ総合的なアーカイブズとし、多言語化や地図の活用などによってより多くの人々がアクセスしやすいプラットフォームとすることで、デジタル時代のオンライン教育など、異文化理解教育での活用を含めた広い協働の可能性も模索する。
2023年度成果
本年度は、下記の4点について調査・研究を実施した。
1)現地の研究者やソースコミュニティとの協働のもと、チェンマイおよびバンコク周辺において写真の撮影地を再訪し、追跡調査をおこなうことで、データに付加する新たな情報の収集と整理を進めた。
2)第1年度に整理し、多言語化した写真の基礎的データの内容を精査し、用語の統一をおこなうとともに、明らかに誤りと思われる記述を修正した。また国際共同研究員である田辺繁治氏に多言語化したデータベースの構成や見出しなどについて確認していただき、長年タイで研究教育活動に携わってきた経験に基づいて修正提案および助言をいただいた。
3)当時の調査に関連する研究成果・論文の情報、民博所蔵の標本資料情報、神奈川大学常民文化研究所所蔵の日本民族学協会(のちの民族学振興会)事務的文書資料情報に関するデータの整理をおこない、作成した写真基礎情報と紐づける作業を進めた。またその成果の一部は、共同研究員の高城玲氏による「第一次東南アジア稲作民族文化綜合調査(1957~58年)に関連する民族学振興会資料について――「趣意書」と「事業実績報告書」」『常民文化研究』第2巻(2023)として発表した。
4)これまでの研究活動の小括として、共同研究員である高城玲氏が、民博共同研究「国立民族学博物館の資料収集活動に関する研究――創設後50年のレビュー」において、「第一次東南アジア稲作民族文化綜合調査(1957~58年)へのアプローチ――民博所蔵のタイ写真資料と常民研所蔵の民族学振興会資料から」と題し、令和6年2月10日に研究発表をおこなった。
2022年度成果
本年度は、下記の4点について調査・研究を実施した。
1)写真資料に関してすでにデータベース化されている日本語の基礎的情報をエクセルに置き換えて整理し、用語の統一化や情報の英語化を進めた。
2)フォーラム型のDBテンプレートを活用し、利用者が検索、利用しやすいようにカスタマイズして、試験用のデータベースを構築した。また成果発信のためのホームページの制作を行った。
3)第1次東南アジア稲作民族文化総合調査に関連する研究成果、論文情報、民博所蔵の標本資料情報、神奈川大学常民文化研究所所蔵の日本民族学協会(後の民族学振興会)事務的文書資料情報に関するデータの整理を進めた。
4)令和5年度に実施を予定している本格的な現地調査に向けて、令和5年2月にバンコク、チェンライ、チェンセン、3月にチェンマイで予備的な現地調査を実施した。
研究の業績
- ◆ 刊行物
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- 高城玲 2024「第一次東南アジア稲作民族文化綜合調査(1957~58年)に関連する民族学振興会資料について──「趣意書」と「事業実績報告書」」高城玲『常民文化研究』2: 95-128。
- 高城玲 2023「写真映像資料とコミュニティ──デジタルアーカイブ化の先行事例から」高城玲『歴史と民俗』40: 175-212。