大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 国立民族学博物館

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ヨーロッパ地域文化展示のフォーラム型人類文化アーカイブズの構築/基盤型プロジェクト(2024年度~2027年度年)/中川理

プロジェクトの目的

 本プロジェクトは、オンライン上でヨーロッパ地域展示全体に関する情報を効果的に提供するフォーラム型人類文化アーカイブズのコンテンツを作成することを目的としている。作成するコンテンツはヨーロッパ地域展示場全体の展示資料(および関連する収蔵庫の標本資料)のデータベースであり、それぞれの展示資料に関連する文字資料や映像資料をリンクすることによって、それぞれの資料についてマルチメディアによる豊富な情報が得られるようになる。このデータベースによって、専門家だけでなく国内外の幅広い人々がヨーロッパ展示についてより深く学んだり調べたりするための市民参加型のフォーラムを形成することが、本プロジェクトの目的である。

プロジェクトの内容

 本プロジェクトは、(1)ヨーロッパ地域展示場全体の展示資料(および関連する収蔵庫の標本資料)のデータベースの構築と、(2)市民参加型フォーラム形成のためのワークショップおよび関連イベントの開催からなる。
(1)データベースの構築:現状では、ヨーロッパ地域で展示されている文化資源に関して、来館しなければ多くの情報を得ることができない。また、来館したとしても、各展示物の背景にある文化や社会に関する情報をその場で十分に得ることは難しい。さらに、過去には展示されていたが現在は収蔵庫に保存されており、来館者の目に届かない状態となっている文化資源も多い。そこで、幅広い利用者の理解を促進するために、ヨーロッパ展示全体についてより深い情報を提供するデータベースを構築する。データベースは以下の要素からなる。(a) ヨーロッパ地域展示場のすべての展示資料についての二言語(日本語および英語)による情報、(b) 展示資料に関連する収蔵庫の標本資料および過去に展示されていた主要な標本資料についての二言語による情報、(c) 展示資料に関連する文字資料(『月刊みんぱく』や『季刊民族学』等の関連記事)、(d) 展示資料に関連する映像資料(展示場のスライドショーなどの写真およびビデオテークなどの動画)。対象となる標本資料数は、現在のヨーロッパ展示の全資料678点と、関連する収蔵庫資料および過去の主要な展示資料(これらの選別は事業期間中に実施する)約100点を合わせて、およそ800点とする計画である。これらの資料を相互にリンクさせることで、各資料の文化的社会的背景をマルチメディアで知ることができるようにする。利用者が情報にスムーズにアクセスできるように、実際の展示場の配置を再現したインターフェイスとする計画である。同時に、利用者による自由な探索の可能性を広げるために、民族や地域による検索システムも整備する。
(2)市民参加型フォーラムの形成:本プロジェクトで構築するデータベースは、国内外の研究者にとどまらない幅広い一般利用者が各自の目的のために活用できるものとなるように意図されている。その利用を通して、専門家と市民の垣根を超えたヨーロッパ文化に関する研究と学習のフォーラムを形成していくことを、本プロジェクトは目的としている。そのために、完成したデータベースを実際に一般利用者に使用してもらい、その効果と課題を検証するためのワークショップおよび関連イベントを実施する。開催に際しては、館内の関連部署(社会連携・人文知コミュニケーター等)と協力し、効果的な事業となるように工夫する。また、海外のヨーロッパ文化に関する博物館において類似した市民参加型フォーラムの試みが行われているかについて調査を行い、お互いの取り組みについて情報交換を行う。そのうえで、シンポジウムを開催し、その成果を出版物として公開する。

期待される成果

 これまで限定的であった展示資料の社会的文化的背景に関する情報をマルチメディア・データベースとして公開することによって、格段に充実した情報を来館者だけでなく国内外の研究者および市民に届けることが可能になる。それらの情報を利用したヨーロッパ研究の発展の可能性が生まれるだけでなく、幅広い一般利用者に研究と学習の機会を提供することによって、ヨーロッパについての理解を深めるための基盤となることが期待できる。

2024年度成果

(1)データベースの構造の検討と確定:本プロジェクトが構想するデータベースの全体構造および掲載項目の実現可能性について、情報課および編集チームと協議を重ねた。その結果、構造と項目の両者を確定した。
(2)データベースのインターフェースの構築:幅広い一般利用者が活用できるデータベースを作成するという本プロジェクトの目的に合ったインターフェースのあり方について検討を行い、決定した。決定にもとづき、展示場地図とそこに掲載するイラストを作成した。
(3)データベース掲載情報の整理:データベースに掲載する展示資料および収蔵庫の標本資料を確定し、(1)で決定した掲載項目にもとづいて、アルバイトを雇用して必要な情報の整理を行った。
(4)文字資料および映像資料についての検討:文字資料および映像資料の利用可能性についての検討を行い、方針を確定した。文字資料については既存の資料(主に『月刊みんぱく』と『季刊民族学』)を必要に応じて編集して掲載することとした。映像資料については、パノラマムービーおよび電子ガイドの利用可能性について関係各課と協議を行い、利用可能とするための手続きを確認し、著作権・肖像権に関する処理を進めた。また、追加で作成する映像資料について検討し、決定した資料については来年度に撮影を行うこととした。
(5)過去・現在のヨーロッパ展示関係者への聞き取り:これまでヨーロッパ展示の構築に貢献してきた関係者への聞き取りを行い、展示構築の経緯と意図について確認するとともに、利用可能な文字資料および映像資料について確認を行った。
(6)海外博物館の取り組みについての調査:本プロジェクトと関連する一般利用者のための取り組みを行っているヨーロッパ文化関連の海外博物館について調査し、視察を行った。それによって、地域のアーティストとの連携や幅広い市民を博物館に呼び込む工夫など、本プロジェクトの参考となる実践についての情報が得られた。