データベース:奄美大島の踊りと歌と祭り
奄美大島の各地には、アラセツやシバサシや豊年祭などのさまざまな祭りや年中行事が伝わり、そこではさまざまな芸能が演じられてきた。集落の老若男女がチヂン(太鼓)をたたき、歌を掛け合って踊る八月踊りは全島でみられる。南部で盛んな豊年祭では昔から伝わる踊りや歌、流行の踊りなど、新旧さまざまな芸能が演じられる。このデータベースでは、そうした島内各地の芸能や祭りの様相を、民博が取材した映像を通して紹介する。
プロジェクトの目的
徳之島と奄美大島の芸能について、研究者と現地の演者等から双方向的に情報を収集・蓄積する協働性を有するフォーラム型情報ミュージアムのデータベース(以下フォーラム型DBと略記)を、現地の資料館・博物館や関連分野に関わる研究機関・大学等で公開・共有し、現地の演者や関係者、島内外の研究者との連携・協働によって、フォーラム型DBを研究基盤とした芸能研究の新たな課題の開拓から現地における芸能の上演・伝承に資する実践的な課題まで、広範な領域に渡る共同研究を進め、新たな研究領域を開拓する。更に、それらの研究で得られた成果・知見を活用して、両島の芸能に関するマルチメディア番組(以下MMCと略記)や展示を制作し、現地の資料館・博物館等で公開する。こうしたフォーラム型DBを基盤とした共同研究や研究集会等の研究とその成果・知見に基づくMMC・展示の制作及び、それらの公開を通じ、両島の芸能について、演者らの上演や伝承、島内外の研究者の研究の推進、一般の人々の理解の深化等、両島の芸能に関わる人々の広範な活用に供する。加えて、それらを通じ、現地の人々自身による芸能にまつわる各地域の文化の再発見につながるような場を提供する。
プロジェクトの内容
徳之島・奄美大島の芸能のフォーラム型DBに基づく共同研究の実施
・フォーラム型DBは、両島の芸能に関する映像等の情報を集落毎に地図上に表示し、選択によって情報を得られるように構成されている。現地の演者や研究者等による情報の追加が可能なオンライン型で、それを通じて同DBの充実が可能となる。こうした特徴を有する同DBを現地の芸能の演者や関係者、島内外の研究者等と共有し、彼らとの連携・協働によって様々な課題に関する共同研究を進める。
・研究の課題としては、同DBを活用した芸能実践と地域社会の関わりの多様性の解明、同DBを基盤とした芸能研究の新たな領域の開拓、現地の演者らの芸能の理解や伝承活動への同DBの活用、同DBの公開・運用を通じた資料館・博物館等の地域の歴史文化研究拠点や関連分野の研究機関・大学等との研究における協働・連携等が挙げられる。
徳之島の芸能のフォーラム型DBの充実と公開
・徳之島の芸能のフォーラム型DBに基づく共同研究で得られた知見・成果を反映させて、同DBに対し、必要に応じ、奄美群島の各地と両島の芸能の異同等の各種情報の追加や、フォーラム型DBの公開等を通じて得られた各集落の芸能に関する挿話や歌詞等の新規データ登録等を行い、同DBの充実を図る。
・同島内の芸能に関する情報を必要に応じて選択して得られることや、適宜情報の追加によって充実が図られること等の同DBの特徴を鑑み、同DBは現地の資料館・博物館、関連分野の研究機関・大学等における限定的な公開となるが、同島の芸能に関する基本データベースとして運用する。
奄美大島の芸能のフォーラム型DBの構築と公開
・情報課が制作した既存のフォーラム型DBのテンプレートを活用し、令和4年度の情報プロジェクトとして制作を提案中のMMC『奄美大島の踊りと歌と祭り』収録した島内各地の芸能に関する映像等のータを用いて、同島の芸能のフォーラム型DBを構築する。
・同DBを、徳之島の芸能のフォーラム型DBと同様のかたちで公開し、運用する。
徳之島・奄美大島の芸能のフォーラム型DBを活用したマルチメディア番組(MMC)の充実と公開
・両島の芸能に関するMMCについて、両島の芸能のフォーラム型DBに基づく共同研究の成果・知見を反映させて、同DBを基に、奄美群島の各地と両島の芸能の異同等の各種情報の追加や、各集落の芸能に関する挿話や歌詞等の新規データ登録を行って充実を図り、現地の資料館・博物館等で公開するほか、図書館等のそれ以外の場所での公開も検討する。
・MMCはスタンドアローン型で双方向的な情報の追加の機能はないが、ネット環境を問わず配置可能で維持管理も比較的容易なことから、様々な場所・機会における運用が可能となる。従ってMMCは、フォーラム型DBの情報やそれに基づく研究成果の一般の人々を含む広範な人々に向けた公開に活用する。
徳之島・奄美大島の芸能のフォーラム型DBを活用した展示の制作
・両島の芸能のフォーラム型DBに基づく共同研究の知見に基づき、その研究成果の公開の一環として、同DBの情報・システムや蓄積された映像を用いて、両島の芸能に関する展示を制作する。
・展示は、両島の芸能の様相を、奄美群島全体等、広い視野から考察できるように構成し、一般の人々にも観覧を通じて理解が可能な平易な内容のものを制作する。
研究集会の開催と研究成果の公開
・両島の芸能のフォーラム型DB・MMC・展示の公開後、本プロジェクトの評価や本プロジェクトを通じて明らかになった課題の整理等を行う研究集会を現地で開催する。また、共同研究会や同集会での報告や議論等を基に論集等を作成・刊行し、本研究の成果の取りまとめを行うともに、それらの公開を図る。
期待される成果
・両島の芸能のフォーラム型DBは、島内各地の芸能に関する映像等の様々な情報が蓄積され、新たな情報の追加による更新が可能なオンライン型で、両島の芸能に関する基本データベースとなる。但し、追加する情報が内容的に適切か否かの検討が必要になるほか、使用の際に大量に蓄積された多様性に富む情報から必要なものを探したり、情報の研究資料としての妥当性を検証したり、様々な操作が必要となる。同DBのこうした特徴から、公開は芸能の上演・伝承に直接的に関わる演者や関係者、島内外の研究者、資料館・博物館、研究機関・大学等における限定的なものとなる。同DBに基づく共同研究の成果・知見は論文等で公表するほか、両島の芸能のMMC・展示の制作に活用して公開を期する。
・両島の芸能のMMCは、フォーラム型DBに基づく共同研究の成果・知見やその情報・システムを活用して、使用の際の様々な操作を極力省くかたちで制作する。スタンドアローン型で随時の情報の追加はできないが、ネット環境に左右されず設置可能で維持管理も容易となる。こうした特徴から、現地の資料館・博物館に加えて図書館等においても公開を検討し、一般の人々を初め広範な人々の活用に供する。
・両島の芸能の展示はMMCと同様に、フォーラム型DBに基づく共同研究の成果・知見やその情報・システムを活用して制作する。同DBに蓄積された芸能の映像を主たる資料として、同DBよりも情報量を減らした簡便なものを制作し、現地の資料館・博物館において公開して広く人々の観覧に供する。
・フォーラム型DB・MMC・展示は、基本的なデータベースで情報量も多いが使用の際に一定の操作を必要とする専門的なフォーラム型DB、操作が比較的容易で個々の芸能についてある程度詳しい情報が入手可能な一般の人々向けのMMC、観覧により各島の芸能の理解が容易なより一般の人々向けの展示として役割分担する一方で、フォーラム型DBに基づく研究成果がMMC・展示を経て一般の人々に還元されるとともに、一般の人々は展示・MMCを経てフォーラム型DBへの接触・関与が促進されるかたちで双方向的に連携する。
2022年度成果
本年度は、フォーラム型DB『徳之島の唄と踊り』を基にしたMMC『徳之島の歌と踊りと祭り』の内容などの改良・充実、映像展示『島の芸能』の試作を完了し、徳之島島内の天城町立ユイの館などの各地の資料館において、試験的な公開を実施した。また、それらのDB・MMC・映像展示の内容や研究・実践への活用を巡り、本プロジェクト参加者による研究会をリモートで3回、現地で1回開催し、それらの評価や課題の所在などについて議論を行った。
DB・MMC・映像展示の評価は、DBを基にしたMMCの改良・充実に関しては、集団の折目の踊り・水田耕作に関わる芸能など、徳之島の芸能に特徴的なカテゴリーを見出しとして設けた工夫は、島の芸能や地理について知識の十分でない島外の人々にも、このMMCを操作し視聴する際の目安となる可能性がある点は一定の評価ができるが、情報量が多いので、利用者がじっくりと操作し視聴するような環境が必要ではないかなどの意見が示された。映像展示に関しては、徳之島だけでなく、奄美の島々や九州以北の島々の芸能や祭りについても紹介されているので、島の人々にとっても、島外の各地と徳之島との比較によって徳之島の特徴の理解の増進が期待されるし、簡便な映像によって構成され、簡単な操作で手軽に視聴することができるので、資料館にとどまらず、観光施設など様々な場所での公開・活用の可能性があるといった意見が示された。プロジェクト参加者からは、全体的にはおおむね好評という評価を得ることができた。
一方、課題としては、フォーラム型DBのウェブ上での公開・情報収集については、より広範な公開実現のための手続きを加速するとともに、閲覧者から寄せられた情報の整理の方針を、民博のフォーラム型DB全体の考え方との関わりの中で本プロジェクトにおいてはどのように構築するか、MMCの現地公開については、MMCが民博館内のビデオテークブースにおける視聴を前提とすることから、視聴環境の異なる館外のPCで運用する際に別途個別の設定作業が必要となり、試験的公開を一応行ったものの、当初想定していた島内各所における広範な公開に支障を来すという技術的な問題が明らかになり、それを今後どのように改善するか、映像展示に関しては、簡便に視聴できる映像展示は、人々の活用に際して敷居が低いが、その場合、人々による映像の活用を、映像展示の視聴に終始せず、情報量が多いMMCやフォーラム型DBの視聴や操作にいかに繋げていくかなどの点が指摘された。
また、こうした映像の芸能の伝承の実践などへの活用に際しては、芸能の習得の際に参考とする踊り方の記録や手本としての活用という、形式面が強調されがちであるが、芸能の伝承には、芸能自体に愛着を持ち興味を抱く、芸能を演じることを面白いと思うといった演じ手の心意の醸成が重要である。従って、形式面にとどまらず、そうした局面までとどくような映像の活用はいかにして可能かについても考える必要があるのではないかといった、興味深い課題の所在も示された。