大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 国立民族学博物館

English

ペルーの文化資料に関するデジタルアーカイブズの構築と活用/推進型プロジェクト(2023年度~2024年度)/八木百合子

プロジェクトの目的

 本プロジェクトは、民博が所蔵するペルーの文化資料のうち、アンデスの民俗芸能に関わる資料に特化したアーカイブズを構築することを目的としている。ここで対象となるのは、アンデス地域の宗教行事に登場するコンパルサ(comparsa)と呼ばれる仮装行列および民俗舞踊(danza folklórica)と関わる資料で、仮面、衣装、楽器等が含まれる。特に民俗芸能が盛んなペルーの南部高地を中心に本館所蔵の資料に関するアーカイブズを構築するとともに、現在の状況について、現地の関係機関や民俗芸能の担い手たちと協力しながら情報を深化させることが最終的な目標である。
 これらを通じて、アンデス南部高地の民俗芸能の現代の姿を立体的に描き出すとともに、ペルー国内で無形遺産としての登録がすすむ各地の民俗芸能の記録と今後の研究に向けたプラットフォームづくりをめざす。

プロジェクトの内容

 本プロジェクトの対象となる民博の資料は、主としてペルーの仮面、衣装、楽器、合計およそ350点ある。これらの資料はペルーの南部高地のものがほとんどで、アンデスの民俗芸能として有名なハサミ踊りや悪魔の踊りに関する仮面や衣装のほか、クスコ県のパウカルタンボ村の聖母祭礼に登場するコンパルサの仮面が多数含まれる。そこで、本プロジェクトでは、民博所蔵資料と関連するアンデス南部高地を中心とする民俗芸能に関するアーカイブズの構築に主眼をおく。

(1)資料の関連付け
アンデスのコンパルサや舞踊の種類は豊富で、それぞれに固有の仮面や衣装がある。現在データベース上では、仮面や衣装のアイテムが個別に登録されているものが多いが、本アーカイブズでは、舞踊やコンパルサの種類ごとに用いられる資料の関連付けをおこなう。また、民俗芸能の実演の際には、多くの場合、踊りやコンパルサのステップに合わせた音楽を伴うことから、それに関する楽器資料も紐づけていく。

(2)関連情報の付加
以上の資料情報のほか、関連情報としてコンパルサや舞踊の様子を実際に写した画像または短いサンプル映像を付加する。映像についてはこれまでに撮影したもの以外に、足りないものについては現地調査で新たに撮影もおこなう予定である。

(3)多言語化
アーカイブズは日本語と英語に加えて、現地の関係者との情報共有を円滑にするためにスペイン語のページも設ける。また、コンパルサの実演の場では先住民言語ケチュア語の歌謡もみられることから、必要に応じてケチュア語からスペイン語・英語・日本語への翻訳もおこない多言語対応につとめる。これについては現地のケチュア語話者の協力を仰ぐ。

(4)分布状況の把握
個々のコンパルサや民俗舞踊の分布状況について、国際共同研究員とともに現地で情報収集をおこなう。情報収集にあたっては、コンパルサの仮面や衣装などの資料を多数所蔵している国立ペルー文化博物館、カトリカ大学リバ・アグエロ研究所附属民俗芸能博物館、文化芸術社会協会の協力も得る。以上の調査をもとに、アンデス南部高地を中心に現在みられる民俗芸能の分布図をアーカイブズ上に掲載する。またアーカイブズでは、資料名のほか、地域や芸能の種類ごとに検索できるように複数の項目を設定する。

(5)著作権等の処理
アーカイブズの公開にあたっては、画像や映像を含む掲載対象となる資料の著作権等の処理については、この問題に詳しいペルー文化省無形遺産局の専門家の協力を得ながらすすめていく。

期待される成果

(1)本プロジェクトでは、ペルー南部が起源とされるコンパルサや民俗舞踊を中心に取り扱う。近年コンパルサは、農村地域だけでなく、アンデス山岳地帯のクスコ市など都市部でも拡がりを見せており、市内各所の聖人や聖母の祭礼では多数のコンパルサがみられる。本プロジェクトでは、これらの地域で拡大する民俗芸能の分布を把握することが可能になる。
(2)コンパルサや民俗舞踊の多くは聖人や聖母の祭礼やカーニバルなどカトリックの宗教行事の際にみられ、担い手たちの多くは宗教的な信仰を基盤に集う人たちである。神や聖人に対する奉納としておこなわれるこれらの民俗芸能の状況を掴むことは、現代のアンデス地域の宗教動態の理解にもつながる。
(3)アンデスのコンパルサや民俗舞踊の多くは、植民地時代に由来する長い歴史をもち、国の無形遺産に指定されているものもある。現在みられる民俗芸能の実態を把握し、それらを記録する本アーカイブズは、文化遺産の保存や活用に向けた今後の研究の可能性が期待される。

2023年度成果

初年度は主に以下の点を実施した。
(1)対象資料の選定:アーカイブズに掲載する関連資料として、仮面(106点)、衣装(50点)、楽器(244点)の選定をおこなった。
(2)アーカイブズの設計:アーカイブズの検索項目として、フリーワード、地域名、資料名のほかに、コンパルサ/舞踊、祭り、動画一覧の三項目を独自に設定した。
(3)映像資料の撮影・編集:現地で撮影したアンデスの祭りとコンパルサに関する映像の編集をおこなった。併せて、過去に撮影した祭りの映像データの変換もおこなった。
(4)海外の研究者との共同研究:現地のカウンターパート機関および海外の研究者と共同で仮面作りとコンパルサの現状に関する調査研究をおこなった。
(5)仮面の情報収集:クスコの仮面工房を訪問し、制作に関する情報収集をおこなうと同時に、職人に聞き取りをしながら使用地や名称など情報が不明な資料の同定をおこなった。
(6)民俗芸能の担い手とのネットワークの構築:クスコのアルムデナ教会とパウカルタンボ村の祭りに参加するコンパルサのグループのメンバーと面会し、今後のアーカイブズ活用に向けたネットワーク作りをすすめた。
(7)ワークショップの実施:カウンターパート機関であるリマ市の文化芸術社会協会と共同で現地でワークショップを実施(3月1日)し、職人18名と本館の関連資料について情報と意見交換をおこなった。
(8)本プロジェクトを紹介する記事を『民博通信Online』No.9(2024年3月)に掲載した。