プロジェクトの目的
本プロジェクトは、国立民族学博物館(民博)の「衣服・アクセサリーデータベース」に収められた標本資料中、朝鮮半島の女性の服128点と子供の服51点を主たる対象とする。従来民博で行われてきた韓国研究においては、巫俗、農楽、仮面劇などで用いられる衣装に焦点が当てられてきたが、日常的な衣服に対してはじゅうぶんな顧慮が払われてこなかった。本研究では女性と子供の服を対象として、時代や地域、使用状況ごとにデータを体系的に整理し、収集当時の生活との結びつきが理解できるようにすることを目指す。衣装という媒体(メディア)は、使用者の地位や使用場面(労働あるいは儀式)、色や形を通じた感性、模様あるいは文様を通じた象徴性などを表現する。また、それぞれの資料には固有の製造方法(織工程)や時代性、期待される使用者(年齢や階層)、素材などがある。これら多岐にわたる資料の属性を考慮し、衣装がどのような文化的文脈で使用されたかを探求する。本研究を通じて、女性と子供の衣服に関する包括的で正確な知識を提供し、その後、男性の日常服まで研究を拡大できる基盤を築き、今後は韓国の複雑で多様な衣装文化についての洞察が得られることが期待される。
プロジェクトの内容
民族学博物館の「衣服・アクセサリーデータベース」には、女性の衣装128点と子供の衣装51点が詳細に記録されている。しかし、2002年の特別展のときに大量に寄贈された「韓国生活財」資料は含まれておらず、韓国の服飾の資料を全体的に探索するうえでは不十分である。「標本資料目録データベース」でも中国地域の帽子が朝鮮半島のものとして記載されていたり、婚礼衣装が子供の誕生日衣装として記録されていたりするなど、地域、時代、用途の混乱が見られる。また、仮面劇用、巫服、祭り用、農楽用の衣装が主体を占めており、一般的な衣装に関する研究が反映されていない。さらに、これまで民博では伝統的な衣装を主たる収集・研究の対象としてきたため、日常の衣服の収集と研究が不足している。その結果、韓国の衣服文化に関するデータベースは、伝統的な儀式衣装や特定の行事で使用される衣装が主になっており、さらに服以外のアクセサリーや靴、靴下、下着などに関心が払われていない。また、服の色や形、模様などの側面に関する研究も、深く掘りさげたかたちでは行われていない。
このプロジェクトは、まず、民族学博物館の「衣服・アクセサリー」と「韓国生活財」のふたつのデータベースを基に、「標本資料目録」データベースに含まれるすべての女性服と子供服に関する情報をもとに、それぞれの特徴を活かして新たなデータベース構築することを目指す。そのスタートとして、3つに分かれているデータベースを整理する。
第二に、本プロジェクトは整理した資料から、韓国の豊かな服飾文化をより詳細に理解することを目指している。具体的な内容は以下のようになる。
①データ整理と分類: 女性と子供の衣装データを時代、地域、状況などに基づいて体系的に整理し、分類する。専門家の協力を得て、現在の分類や名称に誤りがあれば、修正し、サイズまで正確な情報を記録する。これにより各衣装の基本的な情報を整えて、使用の文脈を明確化する。
②衣装の象徴性と機能: 女性と子供の衣装は単なる装飾でなく、社会的で文化的な象徴である。特に、地位や活動、時代に関わるさまざまな意味を伝える。このプロジェクトでは、これらの象徴性と機能に焦点を当て、衣装がどのように生活に結びついているかを文献調査で詳細に分析する。この目的をはたすため、現地調査と面接を通じて一般の女性たちからの聞き取りをおこない、モノを巡るナラティブを収集する。例えば、妊娠中の帯に関する語りや、産着を作っておくことが産婦の民俗、出産儀式の服にまつわるナラティブは、これまでの産後の慣習に関する諸昭喜の研究と結びつき、収蔵されているモノの研究にもつながる。
③衣装の製作と工芸:衣装が作られる過程、使用される素材の多様性、制作技術などを調査し、当時の織物製造方法や技巧を明らかにする。
④文化的変化と影響: 衣装を通じて韓国の歴史、文化、社会的変遷を探求する。衣装がどのように時代的、地域的、社会的変化に対応し、どのような影響を与えたかについて深く理解し、韓国の衣装文化の多様性と独自性を明らかにする。
期待される成果
女性と子供の衣装の日常性を中心にした時代ごとの変化は、その時代の社会的背景と関連して衣装が導かれた歴史的なプロセスを解釈する重要な手がかりである。日常の衣装の文化的意味をより広く理解することで、人間の日常生活を取り巻く美的感覚に対する洞察を深める。衣装だけではなく、その製作道具、技術、技巧を記録することで、伝統的な技術の保存と普及に寄与する。また、データベースの修正および、資料の再構築を通して、より正確な情報を提供し、社会的変化の流れを理解するための教材とする。また、この研究結果を基に、韓国の服飾やジェンダー史などの専門家と国際セミナーを開いて、学術交流を進める。今後、韓国の海外韓国学資料センターと協力して、データベースを構築し、韓国の研究者にも公開する。